従業員約170名のヤッホーブルーイングの2022年度の育児休業取得率の見込みです(2021年12月時点)。
算出方法:(2023年3月までに育児休業を開始もしくは申し出をする人数)÷(2021年4月1日~2022年3月31日の出産者の数(男性の場合は配偶者が出産した者))
ヤッホーブルーイングの育児休業取得率に関する直近の実績および見込みをまとめると下記の通りです。
表 ヤッホーブルーイング育児休業取得率(2019年度~2022年度)
年度 | 育児休業取得対象者数 | 育児休業取得者数 | 育児休業取得率 | |||
女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | |
2019年度 | 2 | 3 | 2 | 2 | 100.0% | 66.7% |
2020年度 | – | 2 | – | 0 | – | 0.0% |
2021年度
(2021年12月末時点) |
1 | 6 | 1 | 4 | 100.0% | 66.7% |
2022年度
(2021年12月末時点) |
2 | 2 | 2 | 2 | 100.0% | 100.0% |
厚生労働省が実施した「令和2年度雇用均等基本調査」では女性の育児休業取得率が81.6%、男性の育児休業取得率が12.65%と公表されています。現在の日本における育児休業制度の利用状況と比較すると、近年のヤッホーブルーイングの育児休業取得率は男女ともに高い傾向にあると言えます。ここまで聞くと「会社として育児休業にとても力をいれているんですね」と思われるかもしれませんが、ヤッホーブルーイングでは「会社が」というよりは「社員一人ひとりが」育児休業を取得しやすい空気づくりをしてきたという背景があります。従業員約170名の長野県の中小企業で育児休業を取得しやすい環境になった経緯を紐解いていきます。
ヤッホーブルーイングは1997年長野県軽井沢で創業しました。今でこそ19年連続増収と業績もよく、働きがいのある会社ランキングでも5年連続ベストカンパニーに選出されるなど働きがいのある会社と評価されるようになってきました。しかし、創業から8年間連続の赤字が続いたこともあり当時は年次有給休暇でさえとりづらい状況でした。業績が回復してからも2008年ごろまでは男性社員で育児のための休暇・休業を取得した男性社員は一人もいませんでした。しかし、代表取締役社長就任を控えていたてんちょ(井手)は、長男が生まれると同時に年次有給休暇を活用して育児のための休暇を5日間取得しました。
てんちょ「当時はそもそもまとまった年次有給休暇すらとれない状況だったので育児のために休みをとるという前例もありませんでした。そんな中で1週間休みをとったのは、純粋に妻をサポートしてあげたかったから。きっと同じこと思うスタッフが今後も出てくると思い率先して休みました。」
トップ自ら「育児のために休暇をとっていい」ということを示したことで、社内に「男性でも育児休暇or育児休業を取得してもいい」空気感が少しずつ醸成されていきました。
すると、2009年に醸造ユニットに所属していたあーすぃー(福岡)が男性としてヤッホー史上初となる育児・介護休業法に基づいた育児休業を1ヶ月取得。当時のヤッホーブルーイングの従業員数は33名。2009年当時の男性育児休業取得率は1.72%(2009年度厚生労働省雇用均等基本調査)と世の中的にも男性が育児休業を取得すること自体かなり珍しかったです。あーすぃーは当時のことをこう振り返ります。
あーすぃー「背に腹はかえられない状況だったので育児休業を取得しました。里帰り出産ができない条件下で妻だけに出産と育児を任せること現実的に難しかった。だから、育児休業を申請しました。当時、社内に男性の育児休業取得を強く推進するような取り組みや制度があったわけではないですが、当時の上司に相談したら「どうぞ」という感じでしたね。2008年にてんちょがまとまった育児休暇を取得していなかったら、そもそも育児休業を取得するという発想にもならなかったかもしれません。」
2011年にはヤッホーブルーイングではじめて産前・産後休業取得の対象となる女性社員が産休・育休を取得しました。「社員は家族」という価値観のもと女性社員は2011年以降対象者は全員、産休・育児休業を取得しています。
人事総務ユニットディレクターのちょーさん(長岡)はこう語ります。
ちょーさん「てんちょは「社員それぞれのライフイベントにあわせて仕事を継続できる仕組みにしたい」と繰り返し言っていました。社員にはヤッホーブルーイングで末永く働いてほしいという思いがあったからです。私が入社した2009年時点で会社全体の雰囲気としてそれぞれのライフイベントにあわせてサポートしていこうという雰囲気はありましたね。私も自分の子どもが生まれたときには年次有給休暇を活用して育児休暇を数日とりました。」
ヤッホーブルーイングでは、「社員は家族」という価値観のもと女性社員について育児休業取得対象者は2011年以降希望者全員が育児休業を取得できるサポート体制ができあがっていきました。しかし、社内に男性の育児休業取得を強く推進するような取り組みや制度があったわけではなかったこともあり、あーすぃー以降長らく育児休業を取得する男性社員はいませんでした。しかし、2018年に大きな転機が訪れます。
2009年にあーすぃーが育児休業を取得してから9年後。男性としてヤッホーブルーイング史上2人目となる育児休業を取得する男性社員が現れました。
「当時、社内に男性の育児休業取得を強く推進するような取り組みや制度があったわけではないんですが、ヤッホーなら絶対取得していいよって言ってくれると思いました。」
こう語るのは当時物流ユニットに所属していたぽむ(小村)です。
ぽむ「当時所属していた物流ユニットの上司に相談してみたら「とりなとりな~」という感じで予想通りでした。その後、人事総務ユニットに異動しましたが予定通り育児休業を取得させていただきました。お互いの両親が県内にいない中で育児をする必要があったので育児休業を1ヶ月間取得できたのは本当に良かったです。取得してみると1ヶ月は絶対必要だったと実感しました。育児休業を取得したことで子育ての生活サイクルがよく理解できたので、復職後の育児にもとても生きました。」
育児休業の大切さ・素晴らしさを実感したぽむは、復職後に全社員の前で育児休業の良さを発信しました。
同時期に人事総務部門でも男性社員が育児休業を取得できる環境づくりを本格的に取り組み始めました。また、男性社員が育児休業を取得した際のメリットが分かる「育児休業ポスター」を掲示することで育児休業に関する理解促進に取り組み始めました。ぽむの発表と人事総務部門の働きかけをきっかけにヤッホーブルーイングでも男性社員が育児休業を取得するケースが増加。2019年3月には通販営業ユニットのうえぽん(植野)が1ヶ月の育児休業を取得しました。育児休業を終えたうえぽんも自身が体験した育児休業の大切さ・素晴らしさについて「育児休業ポスター」にコメントを掲載する形で全社員に向けて発信をしました。
2020年度には3ヶ月育児休業を取得する男性社員が2人。そして、2021年度には育児休業を8ヶ月取得する男性社員も出てきました。
「男性社員が育児休業を取得することはヤッホーブルーイングでは普通だよね」という空気感になってきた要因は、第一に人事総務部門が育児休業を取得できる環境づくりに取り組んできたことにあります。そして、人事総務部門から「もしよかった育児休業を取得してみた感想を発信してみない?」という声がけをきっかけに育児休業を取得した男性社員が育児休業の大切さ・素晴らしさについて“自分の言葉で”発信してきたことにあると考えています。育児休業を取得した本人たちの言葉だからこそ社員の心に響き「自分も子どもが生まれたら育児休業を取得してみようかな」と思う男性社員が一人、そしてまた一人増えていったのだと思います。
2021年ついにヤッホーブルーイングで初めて管理職にあたる男性ユニットディレクターが育児休業を取得しました。しかも、2人もです。そのうちの一人、通販受注・お客様対応のユニットディレクターどうもっちゃん(道本)は約1ヶ月の育児休業を取得しました。
どうもっちゃん「新型コロナウイルス感染拡大の影響で里帰りもしづらく妻と二人で育てる必要があったので育児休業を1ヶ月取得しました。すでに育児休業を取得したみんなが育児休業の大切さについて発信してくれていたこともあり、ヤッホーで育児休業を取得しても問題無いと思えました。そして何よりも実際に育児休業を取得することができたのは、ユニットのメンバーはもちろん私のユニットも含めた複数ユニットが所属する部門のディレクターや当時参画していたプロジェクトの仲間がサポートしてくれたおかげです。育児休業中は子どもが超可愛くてとても癒やされました。また、1ヶ月の育児休業を通して育児スキルが身についたので、今でも妻と同じレベルの育児ができるのは本当に良かったです。」
逆に育児休業を通して困ったことについてどうもっちゃんはこう語ります。
どうもっちゃん「強いて言うならば本当は1ヶ月とは言わずにもっと長い期間育児休業を取得したかったのが本音です。管理職としてのマネジメント業があることに加えて、育児休業を取得した時期に1年強かけて担当してきたシステムのリプレイス作業が重なってしまいました。これらの背景を踏まえて育児休業は1ヶ月取得しましたが、2022年4月に施行される新制度「休業中の就業」が使えたらもっと長い期間育児休業を取得していたかもしれません。」
2021年6月に改正された「育児・介護休業法」が2022年4月から順次施行されます。男性版の産休や休業中の就業について認められるなど現状の日本の実態にあわせた制度になることで、男性にとって育児休業を取得するハードルが下がることが予想されます。ヤッホーブルーイングでも新制度も活用することでそれぞれのニーズにあわせた育児休業が取得しやすい制度を整えていきます。
ヤッホーブルーイングでは育児休業を取得する社員が増えてきましたが、人事総務部門が「育児休業を必ず取得してください」と社員に育児休業を積極推奨することはしていません。
人事総務部門は育児休業を取得したときのメリットが分かる資料を提供したり、育児休業を取得した社員が育児休業の体験談を発信するなど、育児休業を取得するうえでの判断材料は十分に揃っています。そのうえで最終的に育児休業を取得するかどうかの決定権はあくまでも社員が握っていることが大事だと考えています。「育児休業を必ず取得してください」と社員に言うことは、社員の状況によっては価値観の押し付けになってしまう可能性があるからです。例えば、キャリアを重視して少しでも現場にいたいという気持ちや育児休業給付がもらえるとはいえ収入を少しでも減らしたくない、といった社員に対してです。
したがって、ヤッホーブルーイングでは育児休業取得率100%という数字ではなく、「育児休業を取得したい!」と思ったときにいつでも会社に申告ができる心理的安全性の高い組織であることの方が重要だと考えています。
組織づくりについて、代表取締役社長のてんちょはこう振り返ります。
てんちょ「昔は小さなお子さんが病気になり急に会社を休むスタッフが出るたびに会社が混乱していました。休むスタッフはそんな状況に申し訳なく思い、周りのスタッフは急に休むスタッフに対して不満を抱く悪い雰囲気でした。ですが、いざ自分に子どもができると急に休むことが多くなり初めて育児の大変さを実感しました。小さなお子さんを抱えるスタッフがいつでも安心して会社を休めるようにしないといけない、それを周りも理解してあげないといけない、そして急に休んでも問題がないようチームで仕事をしてフォローできる組織構造にしないといけない、そう考えるようになりました。2009年、チームビルディングプログラムを推進し始めたことでスタッフ同士の相互理解が進んだだけでなく、スタッフみんながチームで仕事をするようになっていきました。そのおかげもあってスタッフが育児で休んでも支障をきたすことが段々と少なくなってきたのではないかと思っています。」
今では、育児休業を取得することを公表するとヤッホーの先輩ママ社員から「奥さんにこういうことしてあげたらいいよ」「こんなことあるだろうけど大丈夫だよ」といったあたたかい応援アドバイスがあるそうです。とても参考になるアドバイスばかりで「現代っ子は甘いね~」といった声は一切無いとのこと。
最後に個人的な話ですが、将来、私にも子どもができたら絶対に育児休業を取得したいと思っています!同僚が育児休業の素晴らしさを発信してくれているからこそ育児休業は本当に素晴らしいものなんだなと心からそう思います。そして何より育児休業を申し出たらヤッホーブルーイングのみんなは絶対歓迎してくれると確信しているからです。その際には育児休業レポートを書かせていただきます!
ヤッホー広め隊
ジン(渡部)